VIVA★63

アラフォーデザイナー@サイゴン

【眠れない夜】 第2章 1997年 演出

 

【眠れない夜】第2章 1997年 演出

辛い時ほど、自分が楽しかった頃や輝いていた頃を思い出す。

17歳の冬、高校2年生の僕は来年から本格的に受験勉強を始めなければならなかった。
僕は今、演劇部としての最後の芝居に望んでいた。
公演はクリスマスイブ、僕は役者ではなくて演出だった。引退を目の前に控え、半ば強引に演出をやらせてもらった。

この時ほど自分が輝いていたと思うことはない。

「どうして、まだ決まらないんですか?」

1年後輩の阿部美香は、舞台の上で涙を流しながら問い詰めてきた。彼女の大粒の涙が2,3滴舞台の上に落ちた。
公演があと一週間後に迫っているのに、彼女の衣装が決まっていなかった。

このとき、僕は女の子を泣かせたのは初めてだった。とても戸惑ってしまった。そして、少しばかりの罪悪感を感じた。
しかし、衣装が決まらないのにはそれなりに訳があった。舞台に立つ役者の衣装は基本的にかぶってはならない。遠くから観てる観客は、衣装の形や色で役者を判断するからだ。

美香の役柄のイメージに合う衣装で、他の役者とかぶらない色のものがなかなか見つからなかったのだ。
とはいえ、そんなことで泣かれるとは思ってもみなかった。それと同時に、涙を流すほど美香が、自分の役に思い入れがあるということにちょっとばかり感動した。

「ごめんな。もうちょっと待ってくれよな。良い衣装が見つからないんだ。」

そんな言葉しか口から出てこなかった。
僕は17歳になっても、一度も誰とも付き合ったことのなかった。そんな僕には、女の子の扱い方が良くわかっていなかった。

「今日も来てるよ。」

クラスメイトに言われ、僕は気づいた。
演出助手の新田梓(あずさ)が、今日も休み時間に、ノートを持って僕のクラスにやって来たのだ。
彼女は正直可愛い。背が小さくて笑顔がまぶしい。
演劇部に数いる女子の中でも、僕は彼女を一番気に入っていた。彼女は頭もよくてかわいくて人気がある。
彼女が毎日ノートを持って、他のクラスからやってくる。そんな彼女を通い妻なんて、噂にされるのも悪い気がしなかった。

「ありがと。また、後でな。」

会話はあまりない。恥ずかしいのだ。ノートの内容は、彼女との交換日記。だったら、とても楽しいのだけれど違う。7人の役者との交換日記だ。アドバイスや励ましの言葉を、このノートに書く。そして、また役者に渡すのだ。
この交換日記は、梓の提案で始めたものだった。  このノートのおかげで、毎日彼女とクラスで会えるのはとてもうれしかった。

「かいとー、CD持ってきた!?」

部活のはじまる前、1年先輩の川上結花が話しかけてきた。
結花は元部長で、大学の進学もすでに推薦で決まっている。暇なのか、よく部活に顔出して偉そうにいろいろ話してはいつの間にか帰っていく。
彼女は、容姿はよくて過去の噂も多い。要はモテるのだ。 けど、僕は彼女の性格はあまり好きではなかった。
先日、部活帰りに結花や梓と他何人かとカラオケに行った。その時に、僕が唄った曲を結花は気にいった。そして、そのCDを貸す約束をしたのだった。
この時はまさか、結花と付き合うことになるとは思ってもみなかった。

その時僕は、今回のクリスマス公演が終わるまではあまり余計なことは考えたくなかった。
僕の学校は、進学校で受験に影響するからと男女交際禁止であった。男女が二人きりで帰っているのを先生に見つかるだけで、職員室に呼び出しをくらった。しかもそれは、男だけだ。
でも、演劇部は男女が一緒の部活だから、否応なしにカップルは生まれていた。先輩の結花はいろんな男との噂がたくさんあった。それだけ、彼女は魅力的な人ではあった。
とにかく、クリスマス公演まで後一週間を切っていた。演劇部における僕の最後の活動に全精力をかけていた。

「かいと、エンディングの曲どうするよ?」

舞台監督であり、音響にも精通した鈴木亮介だ。彼は中学校の頃から、演劇演劇とよく言っていた。亮介は中学のころから演劇オタクだ。彼の影響もあって僕はいまこの場所にいるのだ。
今、エンディングの曲の候補が二つあった。サスペンス的なこの芝居の最後を飾る曲をどうするかだ。
ミステリアスで暗い曲にするのか、それともファンタジックな曲でクリスマスらしさを出すのかであった。それは、この脚本をストイックに表現するか、それともクリスマス気分に合わせて明るく終わらせるかの選択でもあった。

「・・・エンヤで行こう。」

「本当にいいのか?」

「個人的には嫌だけど、クリスマスだしな。お客サン的には盛り上がるだろ。」

僕は、後者を選んだ。エンヤのファンタジックな曲に決めたのだ。
公演後のアンケートを読むと、その曲の評判はなかなか良かった。それは後日わかったことだ。

週末に公演を控えた月曜日の練習はあっという間に終わった。帰り道は、先日舞台の上で涙を見せた美香とつきあっている細木と一緒だった。
細い川沿いに生い茂る木々。それにそって、あまり整備されていない道がある。整備されていないとはいえ、毎日人が沢山通る道だから、障害物はあまりない。水の音や、木々のざわめきを感じながら歩ける素敵な道だ。そこが、僕たちの通学路だった。

「細木は大変だよな。」

「え、何が!?」

「おれこないだ練習中、美香に泣かれたんだけど。よく泣くのか?」

「そっか。まぁな。」

細木はあまりその事について話したくはないようだった。僕と細木とは中学校からよく二人で遊びにでかけている仲だ。演劇部の中では一番付き合いが長い。
彼は、今年の夏ごろから阿部美香と付き合っている。僕より先に彼女ができて、正直うらやましかった。

「かいと、悪いな。」

細木は、僕が文句を言っていると思ったのか、申し訳なさそうに言った。

それは、6月だった。梅雨に入り天気が安定しないある日の放課後。突然雨が降り出した。
部活の後の帰り道、美香が傘を持たずに、ずぶ濡れになりながら歩いていた。

僕と細木ともう一人の友人中島がそれを見つけた。そこで、僕と中島が、細木に言ったのだった。

「美香のヤツ傘持ってないみたいだぞ。かわいそうだから、細木の傘にいれてやれよ。」

細木洋介は恥ずかしがって、しばらく抵抗していた。しかし彼の優しさか、彼は傘に美香をいれて、あいあい傘をして帰って行った。

その二人の後ろ姿はいまだによく覚えている。
それがきっかけになって、細木と美香は付き合うようになったのだ。その帰り道を、今は細木と一緒に歩いていた。

「おれこそ悪いことしちゃったみたいだな。」

僕の方こそ申し訳ない気持ちだった。
なにせ、女の子を泣かしたのは初めてだった。僕はそれを結構気にしていた。だから、美香の彼氏の細木に謝りたかった。

 

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