VIVA★63

アラフォーデザイナー@サイゴン

【眠れない夜】 第6章 1997年 進展

 

【眠れない夜】 第6章 1997年 進展

眼を開けると、明るい蛍光灯の光がまぶしかった。知らない顔が二つ僕を覗き込んでいる。ぼくは今どこにいるのか、どういう状態になっているのか全く理解できないでいた。ただ、知らない人達に覗かれているのがすごく恥ずかしかった。

「まだ、起き上がらないでください。」

起き上がろうとしたら、白い服を着た女の人に制された。なんとなく、現状がつかめてきた。僕はどうやら病院にいるらしかった。
言われた通り横になり目を閉じると、右からトラックが飛び出してきた光景が、フラッシュバックのようによみがえってきた。そうか、僕は車に撥ねられたんだ。
そして、いつの間にか僕はまた眠りについていた。

次目覚めた時は、病室のベットだった。僕は、起き上がって普通に歩くことができた。首が少し痛いだけで、特に体に異常は感じられなかった。信じられないことだが、僕は軽いむち打ちをしただけであった。それでも、事故のあった夕方から次の昼くらいまでは寝ていたらしい。なんだか不思議な気分だった。
僕はどうして助かったんだろう。脳検査も異常なかったらしく、今日一日安静にして、明日の朝には退院できるそうだ。
しかし、ちょっと困ったことが一つあった。眼鏡もコンタクトもないから、生活しずらいことだ。
そんなことは、周りの反応に比べたらたいしたことじゃなかった。眼を覚ましたときは母親はいなかった。しかし、母は僕が寝ている間はとても心配していたらしい。看護婦さんが言っていた。

それともう一人、僕のことを心配している人がいた。結花だ。僕からポケベルが来ないから、昨夜家に電話したそうだ。そして、母が電話に出て僕のことを聞いたらしい。結花から何件もメッセージが入っていて僕はうれしかった。とりあえず、病院の電話から結花にポケベルをうった。それが、僕が目覚めて最初にしたことだった。

 

冬休みが終わり、3学期が始まった。僕は新学期早々、首にコルセットをつけて登校した。これをつけていると、まるでロボットのようで少し恥ずかしかった。だが、ちょっとした話のネタにはなった。
先月引退したぼくは、今日から部活に行く必要がなかった。それを今は寂しく感じた。受験勉強といえど、あと一年後のためにいまから猛勉強できるほど、僕は勉強が好きではなかった。なんだか、なんのために部活を辞めたのかわからなかった。
だが、今日は大きな楽しみが一つあった。結花に会えることだ。
冬休みは結局、結花に会うことはなかった。事故の後も、毎日ポケベルを送っていたし、時々電話をしていた。
そして、明日会えるのが楽しみだ、という会話を昨日して電話を切った。
昼休み、部室に行くと結花がいた。結花の態度は以前と変わらない。僕たちは先輩と後輩だ。でも、二人でいるときの空気感が少し変わってきているって感じた。

「うわ、なにそれ!?コルセット??」

「うん、例の。かっこ悪いでしょ。」

「でも、無事で本当によかったよ。」

いままで、結花がこんな表情で僕と接したことあるだろうか。そして彼女は続けた。

「今日帰りに久しぶりにカラオケ行かない?」

向こうから、誘ってくるとは思わなかったから、気持ちが高なった。うれしかった。

「いいね。おれも最近カラオケいってないから。」

「そっか、よかった。実は浩次に誘われてて、二人じゃちょっとあれだと思ってたから。」

あれって、なんだよ。てか、ふたりきりじゃないのか。残念だが、結花は浩次と二人きりで行くことを選ばなかった。その残念さと嬉しさとがまじりあって、微妙な気持になった。

僕と若杉浩次とは、今年の夏一緒にバンドを組んだ仲だった。僕はヴォーカルで彼はベースだった。一回きりのバンドだった。他のメンバーとはあまり気が合わなかったが、浩次とは気があった。
そのつながりで彼は時々演劇部に顔を出すようになり、小道具をつくったりするようになった。浩次は背は低いけれど、綺麗な顔立ちだった。彼の容姿は正直羨ましかった。ただ、性格は少し問題はあった。けれど、逆にそれが手のかかる弟のようで気になってしまうのだ。
しかし、浩次が結花と連絡取っているとは全然しらなかった。それに、彼には彼女がいたはずだった。
なんだか、結花との関係を進展させる自信がなくなって来た。もともと、僕はいままで誰ともつきあったことがないんだ。

「あれ、今日は結花先輩と佐々木だけ?」

梓が部室に入って来た。僕はなんだかバツが悪かった。別に男女二人で部室にいることは珍しいことではなかった。
ただ、ついこないだまで僕は、結花よりも梓のことの方が好きだった。だから、なんだか勝手に申し訳ない気持ちになっていた。

「おれたち、部活ないし暇だからね。」

僕は乾いた返事をした。

 

放課後、僕と結花と浩次の3人でカラオケに行った。浩次がいたとはいえ、久々のカラオケは楽しかった。カラオケの後はマックに行った。だいたいお決まりのコースだ。
そこで、僕は気づいた。浩次の帰る方向は、僕と結花とは逆方向だ。彼は上りの電車に乗るのに対して、僕と結花は下りの電車で途中まで一緒だ。二人きりになれるチャンスだった。
だが、結花を好きだけれども、僕はすぐ告白しようとか思っていなかった。だいたい、これからどうしていったらいいのかさえわからなかった。
浩次と別れ、二人で電車に乗っている時、彼女は言った。

「駅まで送ってくれるでしょ?」

完全に彼女ペースだ。ていうか、僕はへたれだ。僕から

「駅までおくるよ。」

と言うべきだったのだ。彼女の降りる駅は僕の最寄駅よりさらに3駅下ったところだった。
駅から出るとまっすぐに続いている商店街。それを目的もなくただ二人で歩いていた。僕は彼女と二人でいられることがうれしかった。それだけでよかった。きっと結花もそう思っているだろう。そういう雰囲気だった。
商店街をいったりきたり2往復くらいすると、夜10時を過ぎていた。彼女の家に門限がないとはいえ、さすがに帰らなくてはならなかった。

「今日はありがとう。たのしかった。」

「おれ・・・。」

好きだ。という言葉が喉まで出かかっていた。でも、言葉を必要としないような顔で、彼女は僕を見つめていた。
そして二人の距離がだんだん近づいてきた。僕も彼女の大きな瞳を見つめていた。街灯に照らされた彼女の顔は、普段より大人びて見えた。
次の瞬間、彼女は僕の背中に腕をまわし、身体を預けてきた。

僕は、突然のできごとで、言葉を発することもできずにいた。ただ、胸で結花を受け止めて、抱きしめ返すことしかできなかった。
でも、今はそれでよかった。ただ、僕の胸の鼓動の高鳴りが、結花に伝わるのではないかと思うほど、大きくなっていた。静かに時間は流れ、無言のまましばらく抱き合っていた。
気づくと彼女は泣いていた。僕は気のきいた言葉の一つも出てこなかった。そういえば、これで女の子を泣かせたの二人目だ。そんなことが、頭に浮かんでしまった。

「また、明日。」

「うん、じゃあね。」

結局お互い言葉で確かめ合うことはなかった。

でも確実に二人の距離が近づいたことを感じていた。

 

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第7章へ続く>>

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